更新:2017年5月15日 16:30
東芝が5月15日に決算の内容と、監査の状況について記者会見を行しました。
今までの公開された情報に基づく疑問、記者会見の内容・着目点と今後の見通しについて検討しました。
今までの公開された情報に基づく疑問
東芝は決算について監査している法人の会計士が一時離脱しているというニュースが5月13日に出ました。
また、監査法人変更という禁じ手も5月上旬にニュースとなりました。
この異常な状態については、以下の記事を作成し、
東芝会計士が一時離脱!なぜ?深層と東芝記者会見の内容を想定!
具体的な問題点としては以下の3点がありました。
- 一部経営者による不適切なプレッシャーの存在
- 損失を認識すべき時期がいつか
- その他調査事項
1番については東芝側は認めていて是正措置を取ってます。よって、問題は2と3となり、その評価が終了してないため、結論を表明してないことになりました。
そもそもの問題と疑問は?
そもそもの問題は何かというと、2016年12月に突如、ウェスチングハウスに関して巨額の損失(当時数千億円、2017年2月には7000億円程度と判明)が発表されました。
この損失の可能性が公表されたのが2016年12月ですが、これより前にその事実が分かっていたのではないか、また不正会計をしたのではないか、その公表が遅れたので投資家が損失を被ったのではないか、という疑問です。
なぜその疑問が払拭されないかというと、今までも不適切な会計処理を続けてきたので、本当のことを言っていたとしても信じてもらうことはできないということです。
工事損失が適時に経常されていない等の事象の不適切な会計処理の問題が、2008年~2014年まであり、決算を修正しており、その原因が業績悪化の中で会社からのプレッシャー、トップの利益至上主義に基づく不作為が原因とされてます。
社長は退任してますが、当時の監査法人も金融庁に監査自体が不適切とのことで処罰を受けています。
具体的な調査に対する疑問
東芝は2017年4月11日に、「2016年度第3四半期決算およびウェスチングハウス社における調査の状況・結果に関する説明会」を開き、その内容を映像で公開しています。
その内容を見ると、質疑応答で資料にない事実がやりとりされています。
主なものは、
- 60万のEmailについてデジタルフォレンジック調査を実施
- 数十人からヒアリングも実施
- 東芝としては調査内容については自信あり、調査は十分やったので調査は完了。
- 決算発表を延長しても同じ結論なので不合意でも発表
- それに対して監査法人はもっと調査せよとの意見。
- デジタルフォレンジック調査は、2016年の12月から今年4月まで。
この中で「デジタルフォレンジック調査」とありますが、補足します。
「フォレンジック」とは「法廷の」という意味で、この調査は、法的証拠を見つけるために、押収したPCやサーバ等から裏付けとなるデータを抽出する作業で、削除、消去したデータやEmailの復元も行います。
古くはライブドア事件で警察が行い、念入りに削除されていたデータを復元しました。このデジタルフォレンジック調査を行う民間企業もあります。
このデジタルフォレンジック調査は過去の不正会計でも同様に調査されました。
60万ものEmailで調査をしたら十分ではないかと、思いますが以下の疑問が残ります。
過去にデジタルフォレンジック調査を受けていたので、そもそもコンピュータ上に記録を残さないやりとり(電話、ビデオ会議)をしていたのではないか?
調査期間が2016年12月からとあるが限定しすぎで、2016年4月からとなぜしなかったのか。
デジタルフォレンジックを受け持った企業はどこか?実績があるのか?
海外企業とのやりとりになるので、英語の部分にまでデジタルフォレンジック調査が十分できのか?
数十人からヒアリングしたとあるが、都合の悪い人をはずしてないか? どういう風に人を選んだか?
1番目ですが、特にマネジメントのポジションにいる人は、自分に責任が及びますので注意していることが多いと思います。
コンビュータ上にデータがあり、それを削除しても復元することができることはセキュリティの問題を通じて知っているはずです。
よって調査多少を非マネジメントポジションの人にし、海外企業に英語でアクセスした人が調査対象に十分はいっているか否かが問題となります。
監査法人がもっと調査せよといっていることは、逆に調査が不十分と思われる点があったのではないでしょうか?
記者会見の内容・着目点
これまでの内容をもとに、記者会見の内容・着目点について、説明します。
記者会見としては、
- 決算の内容(不同意)
- 監査法人のやりとり
が説明されます。
不同意なのは、監査法人がもっと調査せよと言っているのに東芝側は調査完了でするつもりがないからです。
今までの調査も数か月かかっているので、短期間で調査が終了し、合意が得られることはないからです。
結果としては、決算発表はできなく、暫定的な決算の見通しとして発表し、不同意か否かとの話しになるまでの調整はしてない内容になりました。
暫定的な見通しでは、赤字額が決算の数値は、赤字が9500億円となり、1-3Qまでの発表した5325億(4月11日)より約4000億弱も増えています。
なぜ急に4000億も増えたのでしょうか? 簡単に説明して欲しいところです。
5月15日の決算見込みと4月11日の見込みの値は整合が取れてないのでわかりにくくなっています。(4月11日の資料では、純損失1兆100億円という数値は出てないのに、5月15日には、4/11 3Q決算時に提示したかのような資料になっております)
この原因の説明はあまりされておりません。
こういう会計資料は、前回のものと見比べてみるのがミソです。
そこに違う数値があった場合は何か怪しい点となります。
資料だけを比べてみても会計処置について疑問が生じます。
このあたり記者会見で質問がなかったのが寂しいところです。
また、監査法人とのやりとりについては東芝側から説明がありませんでした。
自主的に発表して欲しかったところですが、調整がすすんでなかったためでしょうか。
以下が会見の模様です。
その中で着目すべきは以下の点が言及・質問・回答されるか否かです。
結果を=>で示しました。
- 監査法人が調査が足りないと言っている点は具体的にはXXX,YYY,ZZZである。 => 説明はありませんでした。評価の内容は開示できないとのことです。遅れていながら残念な内容です。
- 東芝側では調査が十分とは考えていたが、追加調査することとした。
=> できるだけ協力して、前向きに協力していくとの話しになりました。調査は完了と4月11日には言ってましたが、今回は「調査はほぼ終了」とトーンダウンしています。前回は3Qまでだったので、年度に関しては調査を続けるといってます。 - 追加の調査は行うが期限を切って行う。=>協力して行い、東証が求める決算の時期までとのことです。但し、監査法人と具体的なスケジュールの調整はしてないとのことです。(6/Eが東証への期限です。)
- 2,3の代わりに監査法人みずからが専門会社を含めて調査を行うこととする。 => これもありませんでした。
- 監査法人と調整し、この一連の作業はYYYYYまでに終了し、正式な決算発表を行う予定。 => 2参照。
- デジタルフォレンジック調査について問題なかった調査か否かの具体的質問と回答(疑問については以前の記述参考) => 一切質問も回答もありませんでした。今回の調査のキモの部分だと思いますが。
- ヒアリングした対象者については、どう選んだか、管理職以外の海外の担当者も複数抜けなく第三者が選んだか? => これについても質問、回答はありませんでした。
4月11日記者会見の「もっと調査せよ」との話しだけでは具体性がないです。
東芝側が「事実がなかった」といっているだけではなかなか信頼性がないと思います。
東芝はデジタルフォレンジックの調査内容と結果、関連者へのヒアリング内容と結果を監査法人に提供しているはずで、その上で監査法人から「もっと調査せよ」と言われているはずで、その内容を具体的に発表してもらわないと論点が不明です。
1で、ここまで決算が遅れたので、その理由を具体的に開示するか否かがまず着目点です。 ですが、特に言及はありませんでした。
次に、2,3で東芝側は調査が完了したと言ってましたが、追加調査すると表明するか否か、これも重要なポイントです。
追加調査しない限り監査法人はの同意しないはずなので、対応せざるを得ないはずですが、そういうことなるか、もしならないのなら同意が得られないままとなります。 これについては前向きに協力して行うとトーンが変わりました。
そして3,5ですが、その期限が設定できているかも重要な着目点です。
4月11日の記者会見では「監査人が作業を実施するのでいつになるかわからない」旨の発言がありましたが、これは通常ビジネスとしてはとてもヘンで、期限を設定しない仕事はないはずです。
監査人側とも調整が最低限とれている必要があります。
記者会見では、ただ、具体的な調整は監査法人とはしてないとのこと、基本的なコミュニケーションがとれるレベルまでなってないのでしょうか。
とても不自然です。
また、サプライズがあるとしたら、4の監査法人自らが調査をするというものです。
でもこれについてはありませんでした。
業界の慣習にはないかもしれませんが、以前の不正会計と、監査法人の不手際があったことを考えるとその位のことはして欲しいです。
警察や税務署と違い強制的な調査権はないですが、東芝の合意があればできるはずです。
例えば、企業でISOの外部監査を受ける時には、外部の会社が調査しにきます。
それと同じはずです。
東芝も調査に自身があるのなら、期限を切って、数か月はかかるかもしれませんが、監査法人に対応させれば打開策となるはずです。
監査法人の方は、専門家と、それからデジフルフォレンジックの専門会社を従えて、東芝が実施した調査の範囲と違う切り口とヒアリング相手で調査を実施するのが一番白黒が出ると思います。
この時注意するのは、ISO外部監査でもそうですが、監査を受ける側が都合の良い計算機やヒアリング対象者をなるべく差し出すようにしてくるかもしれないということです。
そういうことを見抜いてきちんと追及ができれば白黒がつくのではないかと思います。
今後の見通し
調査はそもそも監査法人の示唆があったのが2016年12月28日なので、それから約4ヶ月半かかってます。
監査法人がもっと調査せよと言っている限り、新たに踏み込んだ調査をして問題が無かったことを証明するか、あるいは出てきた疑義について対応をとるのが見えるまでは決算が同意されることはないと思います。
調査の結果に基づき疑義が出なかったら、追加調査で2ヶ月位、疑義が出てきたら、その内容次第ですが、その対応で4ヶ月位かかると想定します。
追加調査の期間は、今まで4ヶ月半かかっていることと、決算が遅れていることからあまり時間をかけられないことから2ヶ月と考えました。
その調査内容について疑義があった場合は、その疑義を認めて最終的には会計に反映する必要があるので、疑義の調査に同様2ヶ月、その後の会計反映は、2015年の決算修正の調査に2ヶ月かかったことから合計4ヶ月としました。
今回の記者会見で、監査法人とスケジュールの調整すらしてないので、6/Eに終わる保証はなく、この4ヶ月すなわち8/E~9/M頃でぎりぎりではないでしょうか。
つまり東証の求める6/Eには間に合わないので延長申請することになると思います。
恐らく東芝が真摯に対応している姿勢を示すのなら、延長は通るのではないでしょうか。
東芝側は、監査法人から疑義があり、さらなる調査の要求があるのなら、それにこたえて詳細について説明責任を負った対応をして欲しいです。
また監査法人も、「守秘義務がある」との点で内容を説明しないのではなく、今までの不正会計を見抜けなった監査法人とは違い、どう企業として取り組んで是正していったか、東芝に合意を持った上できちんと説明責任を持って対応して欲しいと思います。
両者がきちんと説明責任を持って対応してもらえれば、市場の安心感も出てきて、また他の企業、監査法人に対する良い影響を与えることが出来るので、そうなることを切に希望します。