電通、ヤマト運輸に続いて、音楽界をけん引するエイベックスでも未払い残業問題がニュースになりました。
音楽業界という特殊な業界ですが、背景となる企業のコンプライアンスの管理と企業文化について、ヤマト運輸の以下記事に続いて検討してみます。
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音楽業界のイメージ
音楽業界は、音楽を作るという創造的な仕事をしており、イメージとしては、勤務時間に縛られるのではなく、創造性が発揮できる環境で必要とあらば夜を徹して働く人が多いと思ってました。
このような業界では、通常裁量労働制が取られているのかと勝手に思ってました。
裁量労働制とは、
業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務に適用できるとされる。
出典: ウィキペディア
となってます。
そういうイメージがあるため、逆に残業未払いというニュースは少し奇異に感じました。
ただし、裁量労働制があるからといって想定範囲を超えていくらでも社員を働かせる制度ではないことも注記しておきます。
エイベックスのコーポレートガバナンスと実態の想定
エイベックスのホームページのコーポレートガバナンスの箇所を見ると、電通やヤマト運輸と同様に、しっかりとした体制が組まれてます。
取締役会と経営会議、コンプライアンス委員会と形の上はしっかりとした体制が組まれてます。
また、コンプライアンスポリシーがあって、これは非常にユニークで会社の特徴を良く表してます。
例えば、以下の記述が冒頭にあります。
あまり硬いことばっかり言われても、「いいもの」が作れないし、体制に反抗する気持ちがないと「新しいもの」ができなかったりする。
だから、ルールや規則は苦手なヤツが多い。
中略:
ちょっと変なコンプライアンスかもしれないが、
これなら僕たち自身が本当に納得できるというものにまとめた。
だから、ここにはなんの嘘も偽りもない。
出典:エイベックス コンプライアンスポリシー
本来は経営者側がコンプライアンスポリシーを従業員に示すはずですが、この記述を見る限り、経営者と従業員が一体となってこのポリシーを作ったようです。
なかなかユニークで創造性を感じられます!
会社の体制上は、そういう従業員と一体の機能は読み取れませんでしたが、実態としては、そういうものが存在している模様です。
具体的には、
弱い者イジメするな。
ウソつくな。
勘違いするな。等
出典:エイベックス コンプライアンスポリシー
とのタイトルで具体的な禁止事項が記述されているわかり易いものとなっています。
未払い残業があるということは、大きいくくりでいうと、「弱い者イジメするな、ウソつくな」というカテゴリーに引っ掛かってくると思います。
今回も労基署から指摘で対応を取ったとのこと。労基署にどう伝わったか分かりませんが、恐らく社員が実態を情報として労基署に流したのではないでしょうか。
あるいは労基署から目をつけられて特別にチェックが入ったのかもしれません。
もし社員が自社の内部通報制度を用いてコンプライアンス委員会の組織に情報がうまく上がっていなければ、形はあったとしても実態が伴ってなかったことになります。
通常、内部通報は、通報者に不利にならない制度となってますが、実態が本当にそうなっているかはわからないからです。
へたに通報したら間接的に自分が申告したと情報が漏れたり(上司が呼び出されるので事例により通報者が間接的に分かる), あるいは通報したけどきちんと相手にしてもらえなくなると、コンプライアンスの組織は機能しなくなります。
コンプライアンスではないですが、通報機能を有する商品を購入して、通報機能を使用して、とある会社にクレームを言った場合、取り合ってもらえなかったことが私にも経験があります。
よって、その内部通報を、労基署にタレこみされる前に、対応してもらう場合は、慎重かつ丁寧な運用が企業には求められますが、そこまでは実態として行ってなかったのではないでしょうか。
今後の改善案を作るとしたら、このコンプライアンスポリシーに、「正確な労働時間を申告する、させる」と追記するか否かが鍵だと思います。
企業文化
今回のニュースの中で、エイベックスは、「裁量労働制やフレックスタイムの導入を検討します」とありますが、ないよりはあった方が良いのですが、この両制度を入れても根本的な改善にはなってないと思います。
例えばフレックスタイムを入れたとしても、同じ問題は続きます。
これは、残業未払いというよりは、夜間の勤務後に朝遅くこれる方が良いので、導入されていても良い業界だと思います。
もともとなかったのが不思議です。
ただ、「勤務時間を正確に入力しない」という問題は解決されません。
裁量労働制を導入というのも、これも残業時間がみなしで一定だからいくらでも働かしても大丈夫と勘違いする管理者が出てくる気がします。
両方の制度は取り入れて良い制度ですが、残業未払いの不正が起きないような十分な検討と社内説明を管理職、従業員等関連者双方に通知して行うことが必要でしょう。
では、従業員の取り扱いに対する実態の企業文化はどうだったのか、もう少し検討してみます。
エイベックスのホームページを見ると、ヤマト運輸のようの働き方改革のように、具体的なものは発見できませんでした。
経営方針資料の中にも従業員の扱いに関する記述は特にありませんでした。
今はライブ、アニメ、デジタルという3領域を成長領域として攻めて行く戦略で果敢に挑戦しています。
この挑戦の課題が大きいが故、攻めて行くクリエィティブな集団と生行き届いた労務管理を両方常に成立させることが難しい業界だと思います。
会社の中の文化としても「きちっと労務管理しましょう、残業減らしましょう」というよりは、「クリエイティブに挑戦していきましょう」という方が声が大きくて当然なのではと思います。
まとめ
エイベックスは、新たな領域にクリエイティブに挑戦する集団です。
また、その志を共にした人たちが入社してくると思います。
今回の残業未払いの労務問題は、「残業時間はきちんと申告する/させる」ということを明文化し、実態も管理できる研修を行い、柔軟性を持った運用も行い、それでも創造的なサービス/製品を出していくことを望みます。