ヤマト運輸が値上げをアナウンスしたのがついこの間の4月25日。
本日、ヤマトHD社長や会長を処分するニュースが流れました。
社長や会長を誰が処分したんでしょうか?
前回の以下の記事では、ヤマト運輸が従業員満足度を優先した優良企業であることを紹介しました。
ヤマト値上げ いつから? 再配達見直し含めその社会的影響は?
社長らを処分とあるが誰が処分したのか、ヤマトHDのガバナンスがどうなっているのか調査しました。
ヤマトHDのコーポレートガバナンス
本日流れたニュースは以下のものでした。
社員の長時間労働などを招いたことから、山内雅喜社長と木川真会長を処分する方針を固めた。役員報酬を3割以上、数カ月にわたって返上する方向だ。傘下の事業会社であるヤマト運輸の長尾裕社長、神田晴夫会長も同様に処分する方針。28日にも発表する。
出典: 2017年4月28日 朝日新聞デジタル より
社長と、会長を処分するとあるので、社長や会長以上の権限をもった人か組織が処分するのではないかと思い、ヤマトHDのコーポレートガバナンスは特殊なのかと考えました。
ヤマトHDのホームページ等を調査してみました。組織的にいうと、しごく普通の統治組織です。
取締役会と経営会議を中心とした執行体制であり、特に外部的な評価の組織もありません。
これはどういうことでしょうか。
つまり社長又は会長が議長を務める取締役会で社長や会長の処分を自らが決定したと想定します。
「処分」という重い言葉を使ったのは、自らを戒める意思があったためと思います。
それでは次に取り組み姿勢を探ってみます。
電通の取り組み姿勢
話しは少しそれますが、電通の統治組織を調べて見ても一般的な統治機構があります。
その統治の中で不幸な過労死の事件があり、電通が厚生省により書類送検されました。(2017年4月25日)
統治機構の定義や、コンプライアンス(法令順守)という言葉がはやってから各企業は「コンプライアンスの重視」をあげています。
しかし、電通で有名なのは、「鬼十訓」
その中で一番インパクトの大きい言葉は以下です。
一度取り組んだら「放すな」目的完遂までは殺されても放すな
出典: 電通
この言葉は私は今でも強く覚えてます。
バブルの頃、30年位前の若手社員の私が徹夜や深夜まで仕事をしている時、深夜にコンピュータルームから自分の机に戻ると、鬼十訓のA4一枚紙コピーが机の上に置いてあったのです!
上司が置いたはずです。
当時は今と違って徹夜をするのがあたりまえでしたのでそのこと自身自分では疑問には思いませんでした。(転職して徹夜がない職場に行って考えが変わりました....)
しかし、深夜にこれを読んで特に上記の文言は忘れられなくなりました。
(さっそく真似して仕事で苦労している若手に同様に夜間コピーを置きました....(笑)。それほどインパクトのある内容でした。)
この鬼十訓は他社にも真似されるものでもあり、電通の社員手帳にも掲載されているとのことで、深く電通文化を作っていたと思います。
要は、企業統治機構をしっかり作り、コンプライアンスやパワハラ研修をしっかりしたとしても企業にもともとある文化や土壌は変わりにくいということではないかと考えます。
今後の電通の改革には期待を寄せています。
ヤマトHDの取り組み姿勢
ヤマトHDの取り組み姿勢はどうかというと、コーポレートガバナンスの説明ページに以下の記述があります。
私たちヤマトグループは、昨今、様々な企業において不祥事が相次ぎ、机上の社会的・公共的役割とコンプライアンス(法令、企業倫理等の順守)に対する関心が、ますます高まってきていることから、改めてコンプライアンスを事業経営における最重要課題の一つとして位置付け、今まで以上に体制の強化とその実践に取り組むことにいたしました。
出典: ヤマトホールディングスホームページ
これは平成15年のものです。
コーポレートガバナンスのガイドラインが2016年7月1日に更新されており、見てみましたが、社訓や経営理念は、社会や顧客を大切にする種子のもので、従業員に対するものは記載されておりません。
会社として官庁にも物申して戦ってきた文化は理解できますが、従業員に対してどうだったのでしょうか。
電通の鬼十訓のようなものは見当たりません。
ヤマト運輸のそもそもの問題
通信販売が右肩上がりで伸びて行くに従って、配達をする人が昼に食事をとれない、休憩時間もとれない、夜間も配達が多くて帰れない、残業時間も申告できないということが問題になっていたようです。
その問題がコントロールできる範囲を超えたために、今回の処置がなされたのだと思います。
休憩時間は、労働基準法では、8時間を超える勤務では最低1時間休憩を与える義務が使用者側にはあります。
ここからは推定になりますが、配達に出ているので、そもそも監督者が休憩をとっているか否かは把握できないと思います。
そしてもし休憩時間がない勤務表を管理職にあげたら、「法令違反」になります。
ここで心良い管理職なら、「休憩時間」をきちんととるように話しをして若干手を打ってくれるかもしれません。
ただし、実態上は配達がどんどん来て、しかも時間指定などのノルマがきついので、無理があるので、社員側は、「無理ですよ」というかもしれませんし、黙って休憩をとったことにすると思います。
良くない管理職からは、「休憩時間は必ず1時間はつけろ」と言ってくるかもしれません。
法律を知っている従業員なら、付かなかった残業時間をメモ帳などに記録をとっているかもしれません。
また、総労働時間あるいは残業についても労働組合と協定を結んでいるはずで、その時間を超える、あるいは超えそうになると、当然それを管理している管理職は、「超えないように」と声をあげます。
これも超えないために、管理職が手をうってくれればいいですが、なかなかそうもいかなかったのではと思います。
管理職側は、せいぜい、「超えないように」と言うかもしれませんし、悪い管理職は、「この時間以上はつけると問題になるんだよな」と言ってくるかもしれません。
そういう中で休憩をとれない人や残業をつけない人が出てきて、雰囲気的に状態化したのではないかと思います。
なお、事実を把握せず黙認していた管理職は、「知らなかった」では済まされず、処罰の対象になる可能性があります。
これはヤマト運輸だけでなく、どの企業でも出てくる問題ではないかと思います。
しかしヤマト運輸では、時間指定配達というサービスがあるため、普通の会社とは異なる厳しい要求だったと推察できます。
たとえば普通の会社で作業をしていて、何時にはこれ、何時までにこれと作業指示が毎日来ることはなかなかないと思います。
せいぜい会議が次から次にあるというレベルかと思います。
ヤマト運輸の対策
平成29年4月13日にヤマト運輸は「働き方改革」の基本骨子を発表しました。
骨子なので詳しい発表は本日2017年4月28日の本決算記者会見時に行うとのことです。
ヤマトホールディングのニュースリリースによると、その改革の骨子は、
労働時間の管理を入退館管理システムに一本化するとともに、管理者と点呼執行者を増員し、社員が労働時間を正確に申告、管理できる環境を整えます。
社員がしっかりと休息を取れるよう、休憩時間中の携帯電話の転送などやインターバル制度の導入
宅急便の配達時間帯の指定区分を見直し
現状の体制に見合った水準に、宅急便の総量や運賃をコントロール
宅急便の基本運賃の改定
上記の5つの改革をスピーディー、かつ総合的に推進するため、本社および全支社、全主管支店に「働き方改革委員会」を設置
なかなか良い改革案だと思います。(値上げや総量のコントロールには客先から反対もあるでしょうが)
働き方改革室というのを2017年2月1日に作って対応してきたとのことです。
もともと従業員を大切にするという文化や通常の企業の標準以上の特別な組織的取り組みがあった訳ではないようです。
これらの取り組みを始めたのは、逼迫した荷物の増加について労働力が確保できておらず、問題に対応しないと今後の企業運営が行き詰ると経営側が判断したことがきっかけと推定します。
また、ブラック企業になるのも人員確保上避けたかったのでしょう。
その対策室ができる前に、電通の過労死の事件があったので、やはりその事件も引き金になり、対策を講じないといけないと経営陣が判断したのではないかと思います。
企業文化というよりは、取締役会で適切な判断をしていったことがすごいと思います。
社内の組織だけでなく、社外、客先への対応まであえて反対されようとも、決めて、発表して調整しようとするところがすごいと思います。
ヤマト運輸のサービス自体は、便利で皆有り難がっているので、受け入れられると思います。
あえて残りそうな問題は?
以下の点が残りそうな問題と考えます。
- 長時間労働や、休憩時間の連絡などのシステムの改善は見受けられるが、結局荷物が多いので、急には問題解決とならない。
- 急には適用できないので、社員側もまだ正確な休憩時間等を入力しないかもしれない。
- それがあたり前になると、「形だけ」ということになる。
1番はしかたないことですが、2については、まず働いている側が正直に申告すべきでしょう。
必ず....自分で抜け道を作らないことです。
また、管理職が「正直に申告するように」ときっちり伝えるべきです。
ただし、管理職がそう伝えても、従業員側は、問題が解決されないので正直に申告しないかもしれません。(私の管理職の経験でもそういうことがありました。)
その中でも特に把握しにくい休憩時間をとることは、より厳重に管理すべきです。
法令違反にもなるし、そのために疲れて交通事故でもなったらまた不幸だからです。(長時間労働ももちろん問題ですが)
まとめ
今回の件は、企業文化で問題を解決した、あるいは企業文化で問題が生じたということでなく、労働力不足という問題を経営者側が積極的に対応をし、組織、従業員対応、社外、顧客含めた全方位的な対応をとったロールモデルになると考えます。
その中で、労働力不足について、労働者の待遇の改善をここまで実施したのは稀なことだと思います。
今後、人口が減るにつれ、さらに労働力不足になり、同様な事例がさらに生じると思いますが、そういう課題に対して一石を投じたことになると考えます。
ただし、形だけではまずうまくいかないはずで、経営者が従業員の問題を真摯に考えよう、という姿勢が重要だと思います。
そのために企業では、企業の理念や方針に、顧客や社会の還元だけが記載されてあったとすれば、それらを改訂し、従業員満足に関する記述をすべきでしょう。
それが今後の人口減社会の中で必要になってくる事項と考えます。
その中で管理職側が決して思ってはいけないことは、「俺が若い頃はこうだった」ということでしょう。
人口が増えている時の社会と、減っている社会ではマネジメントの仕方も違ってくるからです。