東芝とメモリー事業を共同で運営している合弁相手の米国企業のWD(ウェスタンデジタル)社が国際仲介裁判所にメモリー事業を差しとめる訴えを出しました。
WD社に売却すると独占禁止法違反になる可能性があることと、売却提示額が低かったことも原因とされてます。
監査法人との問題だけでも頭が痛いはずですが、第二の火種になりました。
東芝とWDの契約内容、国際仲介裁判所で判断に要する時間、独占禁止法の処理に要する時間と今後の見通しについて検討しました。
東芝とWDの契約内容
そもそも東芝とWDの契約内容がどうなっていたのでしょうか。
東芝の綱川智社長は、「契約に抵触する事実はない」と、2017年5月15日の記者会見で言及しています。
WD社は、ちなみにどういう会社でしょうか。
身近な例で言うと、ハードディスクを作っている会社です。私のPCのハードディスク(HD)もWD社製でした。
近年は、ハードディスクに代わるSSD(Solid State Drive)、すなわちメモリによる高速の外部記憶装置も作っています。
ここに東芝と合弁でメモリ開発した製品を使っていると思います。
このSSDは使った人はわかりますが、HDと比べかなり高速なのでPCの動作が格段と速くなります。
WD社は米国の証券市場NASDACに上場している企業です。東芝と違い株式は暴落しておりません。
WD社と東芝は、工場を共同で保有しているとされています。
WD社は、「メモリー事業の売却は、契約違反の可能性がある」といってます。
契約の具体的な文言はわからないですが、"Change of control"、すなわち支配権の変更についてお互いのスタンスが異なるとのことです。
米国との契約では一般的に誤解のないように詳細を詰めますが、この契約書では、その詳細まで詰めた文言がないからお互い解釈が違うとの水掛け論になっています。
これは国際交渉や契約では良くあることです。
ただ、WDが「契約違反の可能性がある」といって、「契約違反だ」とは言いきってないので、こちらも主張は強くないです。
ただ、両者とも弁護士と相談の上、お互いの主張を決定しているはずです。
国際仲裁裁判所で判断に要する時間
WDが国際仲裁裁判所にメモリー事業売却の差し止め請求をしましたが、判断にはどの位かかるのでしょうか?
仲裁をするところなので、「売却不可」というよりは、仲裁をしてくるのでしょうか。
国際仲裁裁判所では、訴訟よりも費用がかからず、迅速に解決できる利点があるとされています。
仲裁人を立てることとなります。
最終的な最低には拘束力・強制力を持つとされています。
裁定も一度しか出ないので時間がかからないとのことです。
しかし、過去には、三菱重工とアメリカ電力会社で約3年、スズキとフォルクスワーゲンで約4年かかっています。
よって、今の両者のスタンスでは、どちらかが折れない限りすんなり解決しそうもなさそうです。
独占禁止法の処理に要する時間
WDが買収した場合、独占禁止法に抵触する恐れがあるとのことですが、公正取引委員会の資料によると、やりとりのタイミングにはよりますが、届け出を出してから120日程度かかる模様です。
今後の見通し
国際仲裁裁判所の仲裁は、1年以上はかかりそうなので、これが短縮化できる目途がたたない以上、東芝には不利になります。
2017年度中に売却してキャツシュが手に入らない限り、上場廃止になるからです。
上場廃止になってもかまわない覚悟で、また金融支援を得られるのならそのまま突き進むかもしれません。
逆に金融支援を得るためには立派な監査対応を今回しないと銀行から信用が得られないはずです。
ただし、係争関係継続になったら共同で運用している工場はうまく機能しなくなるのではないでしょうか。
そうすると、両者ともLoose-Looseになります。
実際、Win-Winの関係にするには、
- 東芝とWDが売却交渉をして、額を歩み寄る。
- その際東芝は長期係争を辞さない覚悟で臨む。
- WD側は、なるべく売却側を抑える交渉をする。
という流れになるのではないかと予想します。
入札自身は進めるとは思いますが、その高い額をもとにWDと交渉することになるのではないでしょうか。
入札企業があて馬になる気がします。
まとめ
東芝とWDの契約内容、国際仲介裁判所で判断に要する時間、独占禁止法の処理に要する時間と今後の見通しについて検討しました。
米国では、「契約は神の元で平等」との考え方があり、そこには日本流の甲と乙の強弱関係は存在してません。
また訴訟社会である米国のWDは、交渉の手段として、国際仲介裁判所を利用したのだと思います。
やはり契約文言を詳細に決めていなかったことが最大の敗因と考えます。
二次入札は5月の19日とのことですが、この苦境の中で、東芝は立派な監査対応をして、また交渉をWDとうまくまとめていくことを期待します。